ドル建て資産の円換算 — 取得為替を固定する意味
円で見た損益には、株価の動きと為替の動きが混ざります。取得時のレートを記録しないと、この二つが分離できません。
円で見た損益には、2 つの動きが混ざっている
米国株や米国 ETF を持っていると、円で見た損益は 2 つの要因で動きます。
- 株価そのものの動き(ドル建てで上がったか下がったか)
- 為替の動き(1 ドルが何円になったか)
この 2 つは独立して動きます。株価が下がっていても、円安が進めば 円で見た評価額は増えることがあります。逆もあります。
問題は、記録のしかたによっては、この 2 つが分離できなくなることです。
取得為替を記録しないと、何が起きるか
仮に、1 ドル 140 円のときに 100 ドルの ETF を 10 株買ったとします。 ドル建ての取得原価は 1,000 ドル、円では 140,000 円です。
その後、株価は 100 ドルのまま変わらず、為替だけが 1 ドル 160 円になったとします。 評価額はドルで 1,000 ドル、円では 160,000 円です。
ここで取得原価をどう扱うかで、表示される損益が変わります。
取得時のレートで固定した場合
| 取得原価(円) | 1,000 ドル × 140 円 = 140,000 円 |
|---|---|
| 評価額(円) | 1,000 ドル × 160 円 = 160,000 円 |
| 損益(円) | +20,000 円 |
株価は動いていないのに 2 万円増えています。 これは為替の動きによる、まだ実現していない評価の増加です。 売却していないので、この時点で利益が確定したわけではありません。 それでも、円で測った資産の大きさはたしかに 2 万円ぶん増えています。
現在のレートで換算した場合
| 取得原価(円) | 1,000 ドル × 160 円 = 160,000 円 |
|---|---|
| 評価額(円) | 1,000 ドル × 160 円 = 160,000 円 |
| 損益(円) | ±0 円 |
損益がゼロになりました。取得原価も評価額も同じレートで換算するので、 元本に対する為替の動きが相殺されて見えなくなります。
厳密に言えば、為替の影響がすべて消えるわけではありません。 ドル建てで値上がりしていれば、その値上がり分を円に直す際のレートは効きます。 消えるのは「取得元本に対する為替の動きを、独立して見る」ことができなくなるという点です。
どちらが実態に近いのか
「円で見たときにいくら増えたか」を知りたいなら、 取得時のレートで固定するほうが実態に近いです。 この例で実際に支払ったのは 140,000 円であって、160,000 円ではありません。
ただし、これは円を用意して、そのまま買った場合の話です。 以前から持っていた米ドルで買った場合は、そのドル自体をいつ・いくらで手に入れたかという、 別の話が加わります。外貨そのものにも取得時からの為替差損益が生じるためです。
税務上は、外貨建ての取引を原則としてその取引を計上すべき日のレートで円換算します。 ご自身の申告に使う金額は、証券会社の取引報告書や年間取引報告書に記載された 円貨の取得価額を確認してください。
それでも記録が難しい理由
では全員が取得為替を記録しているかというと、そうではありません。理由があります。
円で買った場合、レートが表に出ない
日本の証券会社で「円貨決済」を選ぶと、円で買って円で決済されます。 このとき適用された為替レートは取引報告書に載っていますが、 普段の画面には出てきません。意識せずに買えてしまいます。
買い増すたびにレートが変わる
同じ銘柄を何度も買い増していると、そのたびに違うレートが適用されます。
税務上は「為替レートを平均する」のではなく、 買付けごとの円換算した取得価額を積み上げ、 同じ銘柄について総平均法に準ずる方法で 1 単位あたりの取得費を出す形になります (手数料なども取得費に含まれます)。手元での把握はもっと粗くて構いませんが、 申告に使う数字は証券会社の書類で確認してください。
そもそも「知らなくても困らない」ように見える
ドル建てで見ている限り、為替は関係ありません。 円で見たときに初めて問題になるので、 円換算した数字を見るまで、記録していないことに気づきません。
実用的な落としどころ
分かる範囲で記録する
完璧を目指すと続きません。買ったときのおおよそのレートでも、 記録しないよりはるかにましです。 1 ドル 140 円台で買ったと分かっているなら、140 と入れておけば、 為替差の大きさは掴めます。
ただしこれは画面で眺めるための概算です。 確定申告や、証券会社の年間取引報告書との突き合わせには使えません。 そちらには報告書に載っている円貨の取得価額を使ってください。
入れない場合の挙動を知っておく
取得為替を記録しない場合、円建ての損益からは為替の影響が消えます。 「株価としては上がっているのに円建ての損益が伸びない」と感じたら、 それは為替差が反映されていないためかもしれません。
ドル表示と円表示を切り替えて見る
ドル表示なら、為替の影響を除いた株価だけの成績が見えます。 円表示なら、実際に手元の資産がいくら増えたかが見えます。 どちらか一方ではなく、両方を切り替えて見るのが実用的です。
債券の場合はさらに効く
米ドル建債券は、株式ほど価格が動きません。 円で見た損益のほとんどが為替差になることも珍しくありません。
取得為替を記録していないと、円建てでは「ほぼ横ばい」に見え続けます。 実際には円安のぶんだけ資産が増えているのに、それが数字に出ません。
まとめ
- 円で見た損益には、株価の動きと為替の動きが混ざっている
- 取得為替を固定すると為替差益・差損が損益に現れる
- 現在レートで換算すると為替の影響が相殺されて消える
- 実際に支払った金額に近いのは前者。ただし既に持っていた外貨で買った場合は事情が異なる
- 円貨決済だとレートが見えにくく、記録が抜けやすい
- おおよそのレートでも、記録しないよりはるかによい。 ただしそれは画面用の概算で、申告には報告書の数字を使う
- 値動きの小さい債券ほど、為替差の比重が大きくなりやすい
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