資産の把握に、リアルタイムの株価は要らない
前営業日の終値で足りる理由と、リアルタイムを追うことで失うものについて。
資産の把握と、値動きを追うことは別
資産管理のツールに「リアルタイムの株価」を期待する人は多いのですが、 何のために見るのかを考えると、必ずしも必要ではありません。
やりたいことが「今すぐ売買する判断」なら、リアルタイムの気配値が要ります。 しかし「資産全体がいくらか、配分はどうなっているか」を知りたいなら、 前営業日の終値で十分です。
資産配分は日中の数時間で意味のある変化をしません。 一方、売買の判断には板情報や歩み値まで必要で、 それはもう資産管理ツールの領分ではありません。
リアルタイム配信には費用がかかる
技術的な話ではなく、ライセンスの話です。
株価は取引所が生成するデータで、その配信には取引所との契約が必要です。 一般にリアルタイムの情報は、遅延した情報や終値より高く設定されています。 さらに、利用のしかたや配信する人数によって追加の料金や契約管理が必要になります。 差額がどれくらいかは、市場や情報の範囲によって大きく変わります。
無料のサービスがリアルタイム株価を出していないことが多いのは、 技術的にできないからではなく、費用が見合わないためです。 出しているサービスは、その費用を何らかの形で回収しています (有料プラン、証券会社が自社顧客向けに提供、など)。
「遅延」にも段階がある
- リアルタイム … 最も高い。売買判断に使うもの
- 遅延(一般に 15 分前後。市場や提供者によって異なる) … 比較的安価
- 日足終値(EOD) … さらに安価。1 日 1 回の確定値
資産の把握に必要な精度を考えると、最後の日足終値で足ります。
日足なら「更新ボタン」が要らなくなる
終値には、費用以外の利点があります。 値が変わるタイミングが決まっていることです。
公式の終値は、通常取引が終わったときに 1 日 1 回だけ決まります。 ということは、最新の終値を既に持っていれば、 何度アクセスしても取りに行く必要がないということです。
米国株の通常取引は 16:00 ET に終わります。日本時間では翌朝(夏は 5 時、冬は 6 時ごろ)です。 つまり金曜ぶんの終値が出るのは土曜の朝で、次に変わるのは火曜の朝。 その間は何回開いても、外部への問い合わせは 1 回も発生しません。
なお、通常取引の外でも時間外取引の価格は動きます。ここで言う「変わらない」のは、 その日の公式な終値のことです。
結果として「相場を更新する」というボタンが不要になります。 新しい終値が出ていれば開いたときに自動で入り、 出ていなければ何もしない。利用者が更新を意識する必要がありません。
値動きを追わないことの効用
これは技術の話ではなく、使い方の話です。
頻繁に見るほど、判断は悪くなりやすい
資産額が刻々と動くのを眺めていると、下落局面での不安が大きくなります。 実際には長期で保有するつもりの資産でも、 日中の変動を見続けると売りたくなるという傾向は広く知られています。
1 日 1 回しか値が変わらないなら、そもそも見続ける意味がありません。 見る回数が減ること自体が利点になります。
「いつ時点の値か」がはっきりする
正規のリアルタイム配信には時刻の情報が付いています。曖昧になるのは、 表示するサービスが、取得時刻・市場・遅延の有無・時間外かどうかを出していない場合です。 そうなると、画面の数字がいつのものか分かりません。
終値なら「◯月◯日の終値」と言い切れます。 スクリーンショットを撮って後から見返しても、いつの数字か分かります。
為替も同じ考え方が使える
円換算に使う USD/JPY は、平日はほぼ 24 時間動きます(週末は通常止まります)。 しかし資産の把握という目的なら、公的機関が公表する参考レートで足ります。
欧州中央銀行(ECB)は、休業日を除く各営業日の中央ヨーロッパ時間 16 時ごろに、 ユーロに対する参考レートを公表しています。出どころがはっきりしていて、誰が見ても同じ値です。
ただしUSD/JPY が直接公表されているわけではありません。 ユーロに対する米ドルと日本円のレートから計算した値になります。 また ECB 自身が、この参考レートを取引の目的に使うことを想定していない旨を示しています。 資産の把握に使うぶんには十分ですが、両替の実勢とは異なります。
こちらも 1 日 1 回しか変わらないので、株価と同じ判定が使えます。 持っている日付が最新なら、取りに行かないという扱いです。
例外 — 暗号資産
暗号資産には、市場に共通する「引け」がありません。土日も動き続けます。 そのため「公式な終値が出たかどうか」で判定できません。
取引所やデータ提供者は、協定世界時の 0 時など任意の区切りで日足を作っています。 判定できないのではなく、どの区切りを採るかを決める必要があるということです。 このツールでは時間で区切り、数時間おきに取り直しています。
まとめ
- 資産の把握に必要な精度は日足の終値で足りる
- リアルタイム情報は遅延や終値より高く、配信人数などでも費用が変わる
- 公式の終値は 1 日 1 回しか決まらないので、更新ボタンが不要になる
- 米国株なら土曜の朝から火曜の朝まで、外部への問い合わせは発生しない
- 頻繁に見ないこと自体が、長期保有の助けになる
- 為替は ECB の日次参考レート。USD/JPY はユーロ経由で計算した値になる
- 暗号資産には共通の引けが無いので、どの区切りを使うかを決める必要がある
ほかの記事
- NISA と特定口座は分けて記録する 同じ銘柄でも、口座が違えば税の扱いが違います。まとめて記録すると判断を誤ります。
- 資産配分は、把握して初めて判断できる 「なんとなく分散しているつもり」を数字にすると、たいてい想像とずれています。
- 家族の資産を合算して見ると、何が分かるのか 世帯の資産配分は、一人ひとりの口座を見ているだけでは分かりません。合算と個別を切り替える意味を考えます。