配当の見込みは「予想」ではなく「実績」で数える
同じ銘柄でも、計算のしかたで年間配当は変わります。実績ベースで数える理由を説明します。
「年間配当いくら」の数字は、どこから来ているのか
配当を目的に投資している人にとって、「年間でいくら受け取れるか」は 最も気になる数字のひとつです。ところがこの数字、 計算のしかたによって変わります。
同じ銘柄・同じ保有数でも、根拠にするデータが違えば違う額が出ます。 どちらかが間違っているわけではなく、見ているものが違うのです。
2 つの数え方
予想配当から計算する
企業や情報サービスが公表する「予想配当」を使う方法です。 1 株あたりの予想配当額に保有数を掛けます。
- 長所: 増配が決まっていれば、それが反映される
- 短所: 予想が外れることがある。そもそも予想を出していない銘柄がある
ETF の場合、予想配当を公表していないことが珍しくありません。 中身の銘柄が入れ替わるので、確定的な予想を出しにくいためです。
実績から計算する
直近 1 年間に実際に支払われた配当の合計に保有数を掛ける方法です。 過去の事実だけを使います。
- 長所: 実際に起きたことなので、根拠がはっきりしている。ETF でも計算できる
- 短所: 将来の増配・減配は反映されない
実績で数えるほうが、資産の把握には向いている
マルチアセット資産ビューは実績ベースを採用しています。理由は 3 つあります。
1. 予想のデータが揃わない銘柄がある
ETF は予想分配金のデータが得られないことが多くあります (運用会社が分配の予定を示す例もありますが、扱いは一様ではありません)。
データが無い銘柄をどう扱うかは仕組み次第で、 そのままゼロとして計算してしまえば、その銘柄の配当は無かったことになります。 米国 ETF を中心に持っている人にとっては、合計が実態から大きく外れます。
2. 予想の出どころによって数字が変わる
予想配当は、誰の予想かによって異なります。会社発表、アナリスト予想、 情報サービスの独自推計。どれを採るかで結果が変わるため、 「この数字は何を根拠にしているのか」が曖昧になります。
実績なら基準を 1 つに決められます。もっとも、実績にも決めごとは必要です。 支払日で数えるのか権利落ち日で数えるのか、税引前か税引後か、 特別配当や資本の払い戻しを含めるのか。 このツールでは「支払日を基準に、直近 12 か月・税引前」で集計しています。 基準を決めて明示すれば、同じ条件でいつでも数え直せます。
3. 起きたことなので、根拠を示せる
実績ベースの数字は「直近 1 年に、実際にこれだけ支払われた」という事実に基づきます。 誰の見立てでもないので、数字の出どころを説明できます。
ただし「実績=安全側の見積もり」ではありません。 増配が続いている銘柄では控えめに出ますが、 減配・無配になれば過去の実績を下回りますし、 特別配当が含まれていた年や、支払日のずれで 5 回分が入った年は、 実際より多めに出ます。
将来の下限を保証する数字ではないことは、押さえておいてください。
実績ベースの注意点
減配があった場合、回復が遅れて見える
減配した銘柄は、その後に配当を戻しても、 直近 1 年に減配後の低い配当が含まれる間は低く出ます。 実績を数えている以上、避けられません。
支払いのタイミングで年 5 回になることがある
四半期配当(年 4 回)の銘柄でも、支払日のずれによって 直近 1 年間に 5 回分が入ることがあります。 逆に 3 回しか入らない年もあります。
この場合、実績どおりに数えると多め(または少なめ)に出ます。 「4 回に均す」という処理も考えられますが、 そうすると実績という前提が崩れます。 多少ぶれても、数えたとおりの数字を出すほうが説明できます。
買ったばかりの銘柄も、1 年分として計算される
先月買った銘柄でも、その銘柄の過去 1 年の配当実績から年間配当を計算します。 あなたが実際に受け取った額ではなく、 「過去 12 か月と同じ 1 株あたり配当が繰り返されたと仮定した場合の参考額」です。 同じ額が来年も支払われる保証はありません。
実際に受け取った額を知りたい場合は、証券会社の配当・分配金の履歴や支払通知書を 口座ごとに確認することになります(特定口座の年間取引報告書に載るのは、 その口座に受け入れた配当等に限られます)。目的が違うので、数字も違って当然です。
利回りには 2 種類ある
年間配当が出れば利回りが計算できますが、分母の取り方で意味が変わります。
-
配当利回り = 年間配当 ÷ 現在の評価額
今から買う人にとっての利回り。株価が上がると下がる。 -
取得比利回り(Yield on Cost)= 年間配当 ÷ 取得原価
自分が払った金額に対する利回り。長く持って増配された銘柄ほど高くなる。
どちらも正しい数字です。新規に買うかどうかを考えるときは前者、 今持っているものの成果を見るときは後者が向いています。 両方を並べて出すのは、この 2 つが別の問いに答えているからです。
債券は計算のしかたが違う
債券には株式のような「配当」がなく、代わりに利息(クーポン)があります。 通常の固定利付債であれば、年間の利息は額面 × 表面利率で決まり、 いくらで買ったかには左右されません。
ただしすべての債券がそうではありません。利率が市場に連動して変わるもの、 利息の支払いがなく償還差益で受け取るもの、途中で利率が上がるものなどがあります。 また、支払われるかどうかは発行体の信用力次第です。
詳しくは米ドル建債券の評価額は、どう計算されるのかで扱っています。
まとめ
- 年間配当には予想ベースと実績ベースの 2 通りがある
- ETF は予想のデータが揃わないことが多く、ゼロ扱いすると実態から外れる
- 実績ベースは起きたことなので根拠を示せる。集計の基準を決めて明示する必要がある
- 実績は将来の下限ではない。減配・特別配当・支払日のずれで上下する
- 利回りは評価額に対する分と、取得原価に対する分で意味が違う
- 債券は通常の固定利付債なら額面 × 表面利率。ただし例外の商品もある
ほかの記事
- 暗号資産を資産全体の中でどう位置づけるか 値動きの幅が他の資産と桁違いなので、全体の中での比率を把握していないと、気づかないうちに偏ります。
- 資産の把握に、リアルタイムの株価は要らない 前営業日の終値で足りる理由と、リアルタイムを追うことで失うものについて。
- 資産管理ツールに「データを預けない」という選択 資産額は漏れて困る情報です。預けなければ漏れない、という設計について。